はじめに。
この話は二次創作ですが、二次創作が好きな方は気分を悪くされるかもしれませんのでご注意ください。
「はあ、ふむふむ成程なるほど」
「いつも悪いね、紫さん」
「えっ、これはちょっと」
「わたしはどうすればいいんですか」 幻想郷のとある一画。そこへ集まった少数の人間と妖怪たちは、八雲紫が幻想郷の外から持ってきた雑誌を丹念に調べていた。
「皆さん、これを見てください!」
「ぱぁそなるこんぴゅぅたぁ」を使って「いんたぁねっと」で調べものをしていた紫が、皆を呼び寄せた。「いんたぁねっと」の回線は八雲紫が境界を操って幻想郷の外から繋げている。境界のせいなのか、「いんたぁねっと」はたまに不調のときがある。だが、この「びじねす」のうえで「いんたぁねっと」は必要不可欠であった。
雑誌とにらみ合いを続けていた人間や妖怪らは、紫が指さす「ぱぁそなるこんぴゅぅたぁ」の「ですくとっぷ」をじっと見つめた。
「はあ、ふむふむ成程なるほど」
「いつも悪いね、紫さん」
「えっ、これはちょっと」
「わたしはどうすればいいんですか」
幻想郷に住む人間や妖怪たちにしてみれば奇天烈な箱としか思えない「ぱぁそなるこんぴゅぅたぁ」は、ちかちかと明滅しながら多くの情報をその場の一同に与えていた。
「大変だ、大変だ」
そう喚きながら博麗神社にいたはずの西行寺幽々子が慌てた様子でやってきた。
「いったいどうした」
魂魄妖夢が顔をしかめて言った。
「それが、その、あの」
あまりに動転しているためか、幽々子はしどろもどろになってしまって上手く喋れない様子であった。
「おい落ち着け。水でも飲むんだ」
「あっ、これはありがとうございます」
幽々子はごくりごくりと喉を鳴らして水を飲んだ。
「あまり飲みすぎるんじゃないぞ。お前はいつでも腹を空かせているんだからな」
妖夢がそう言うと、「ぱぁそなるこんぴゅぅたぁ」に見入っていた者たちがワハハと笑った。幽々子は照れたように頭をかく。
「それで、いったいどうして慌てていたんだ?」
「あっ、忘れるところでした。それがですね、実はもうお着きになったようなのです」
幽々子のその言葉に一同が凍りついた。
「なんだと、早すぎるではないか」
「なんでも予定を繰り上げたとかで」
「追い返すことはできないのか」
「もう無理です」
八雲紫は「ぱぁそなるこんぴゅぅたぁ」を「しゃっとだうん」させた。そして慌てふためく一同を前にして口を開いた。
「皆さん、お静かに願います。どうか、慌てないように。確かに予定と比べてずいぶんと早い御到着ではありますが、なにを臆することがありましょうか。わたしたちは今までずいぶんと長い時間をかけて予習をして参りました。もう充分だったのではないでしょうか。努力してきたわたしたちなら問題はありません。いらっしゃいましたら予定通り、喜んでお迎えいたしましょう」
紫のその言葉に何人もの人間や妖怪たちが拍手を送った。自分たちの努力を思い出したのか、感極まって泣き出してしまう妖怪さえいた。紫は一度お辞儀をすると、境界を開いてひらりと優雅に入って消えた。持ち場へ戻ったのであった。
「おい幽々子、はやく帰るぞ」
妖夢は幽々子のそでを引っ張ると、そう言った。
「あっ、でも、博麗神社のほうは」
「いいんだよ、もう来ちまったんだろう? 入口はあそこだけだ。お前の仕事はちゃんと順番を守るように整列させることだったんだからな。お前の仕事は終わったんだよ。なにか文句あるか」
「あっ、ないですないです。すみませんわかりました」
「わかればいいんだよ、ほら行くぞ幽々子様」
※
彼らはすべて人間であった。
彼らは霧雨魔理沙を探していた。だいたいの人間が霧雨魔理沙を探すのである。
彼らは霧雨魔理沙が住むという魔法の森に近づいてはいたが、その森は危険であった。危険であるという予備知識があったため、森の入り口あたりでうろうろとするほかなかった。
と、そこへ箒に乗った金髪の魔法使いが現れた。魔理沙である。魔理沙はビュンと一行の前を圧倒的な速さで通り過ぎて行ってしまった。
「魔理沙ー、待ちなさーい! 今日という今日は許さないんだから!」
その後を、別の魔法使いが追いかけて行った。彼女はアリスであった。
一行は、おおっ、と感動の声をあげた。やがて魔理沙とアリスが見えなくなってしまうと、森から離れていった。
彼らは次いで紅魔館へ向かった。
幻想郷の紅き洋館は窓の少ない厳めしい面構えで彼らを出迎えた。紅魔館は塀にぐるりと囲まれている。彼らは塀伝いに門を探した。果たして彼らは門を見つけた。門の前には「龍」という文字の入った帽子を被る女性が立っていた。いや、立ちながら眠っていた。紅美鈴である。彼女は門番であった。
彼らは立ったまま器用に眠る美鈴を前にして、今かいまかと待ち続けた。やがて、紅魔館の入り口からひとりの若い女性が現れた。十六夜咲夜である。紅魔館のメイド長である咲夜は、門に向けてゆったりと優雅な足取りで近づいた。彼らは緊張し、口内は生唾でいっぱいになった。だが誰も飲み込まない。音を立てて美鈴を起こしたくはないのである。
門までたどり着いた咲夜は門番のすぐ背後に近寄った。そして懐からナイフを取り出すと、帽子のうえから美鈴の頭に向けて無造作に突き立てた。
「あふぇ?」
帽子からナイフを生やした美鈴はそうぼやいて目を覚ました。
「ああっ、咲夜さん」
と美鈴は言う。
「まったく、あなたときたら」
と咲夜は腕を組んで言った。
彼らはその様子の一部始終を見ると、名残惜しそうに紅魔館を去った。
次に彼らが向かったのは白玉楼であった。白玉楼までの階段はずいぶんと長かったが、彼らはそれを苦に感じなかった。
白玉楼の和室では西行寺幽々子が豪勢な料理を食していた。
「幽々子様、お味はいかがでしょうか」
魂魄妖夢が現れた。
「あっ、妖夢。ぜんぜん足りないわ。うぷ。もっと用意しなさい」
幽々子が口を押さえながらにこやかに言う。
「えっ、まだ食べるつもりなんですか。ここの食糧が尽きてしまいますよ」
妖夢は困ったように顔をしかめる。
「うっぷ。そんなこと言っても、ちっとも足りやしないのよ。早く用意してちょうだい」
幽々子は口を押さえたまま言う。
「まったく、困った幽々子様だ」
妖夢は肩をすくめた。
「なにか言ったかしら?」
「いいえなにも」
彼ら一同はどっと笑った。
※
「魔理沙ー! 待ちなさーい!」
魔理沙はまだアリスに追いかけられている。ふたりは幻想郷内を飛び回っていた。いまは白玉楼の庭をどたばたとしていた。
「おーい、ふたりとも。お客さんはもう帰ったぞ」
ふたりを見つけた妖夢はそう言った。
「なんだもう帰ったのか」
アリスはそう言うと魔理沙を追いかけるのを辞めた。
「結構疲れるな。次はパチュリーにやってもらわないと」
「あの、わたしはまた追いかけられる役なんですか?」
肩で息を切らしている魔理沙は言う。
「当たり前のことを聞くな」
妖夢は魔理沙をそう叱りつけると、幽々子を探した。
幽々子は和式の便所で吐いていた。食べすぎであった。
「おい幽々子。さっきの演技はなんだ。ちゃんと練習通りやらなきゃ駄目だろう」
「あっ、ごめんなさいごめんなさい」
幽々子は口元をぬぐうと何度も謝った。
「次はしっかりとやることだな」
「あっ、でも、食べる量を減らしてはもらえないでしょうか」
苦しそうに幽々子が言う。
「あれがお前の役なんだ。しっかり食べなきゃ駄目だ」
妖夢は厳しい口調でそう言った。幽々子はわんわんと泣き出した。
「妖夢さんちょっといいですか」
そこへ八雲紫が現れた。
「おっと、これは紫さん。今日のお客様はどうでした? 満足してましたか?」
妖夢は紫を見ると、厳しい顔つきを笑顔に変えた。
「それはもう大満足の様子でしたよ。そんなことより大変なのです。十六夜咲夜と紅美鈴が喧嘩をはじめました」
「なんだって」
「着いてきてください」
妖夢はわんわんと泣く幽々子を無視し、紫の開いた境界を通り抜けて紅魔館へ向かった。
「おいオマエ何回言ったらわかるんだ。深く刺し過ぎなんだよ」
「浅く差したら意味ないだろ。リアリティがない」
「うるせぇ、結構痛いんだぞ」
「お客様のためだ、我慢しやがれ」
咲夜と美鈴は胸倉を掴み合っての口喧嘩をしていた。
「おいお前たち、なにを喧嘩しているんだ」
妖夢がふたりを止めに入る。
「妖夢さん聞いてください。この人間がわたしの頭にナイフを深く突き刺すんです」
「台本にそう書かれてるんだから仕方ねえだろ。オマエはそれで給料貰ってんだろうが」
「だからってコレは刺し過ぎだ」
妖夢は困ったように頭をかきながら紫と顔を合わせた。
「こいつは少々、台本の書き直しが必要かもしれませんな。喧嘩してしまっては困る。『めいさく』とやらも人気なようだからな。じゃんるに拘らずにお客様が来れば簡単なのに……。まったく、不景気もはやく終わって欲しいものだ」
妖夢は紫が幻想郷の外から持ち出した雑誌の内容を思い出していた。同時に、「いんたぁねっと」の幻想郷におけるいくつかの「らんきんぐ」も思い出す。
「そうですね。では、少しばかり幻想郷への入場を止めてもらいましょう」
紫はそう言うと、境界を開いて幻想郷の入り口にしている博麗神社へ向かった。
妖夢は紫を見送ると、咲夜と美鈴の喧嘩を止めに入った。
※
幻想郷にとっては外来人である彼ら一同は満足し、博麗神社から幻想郷を出て行った。皆それぞれに感想を言い合っている。非常に満足している様子であった。
彼らは全員、神社を振り返った。
『ようこそ幻想郷へ』
神社にはそう書かれた旗がいくつも立っていた。
何人かが我慢しきれなくなったかのようにデジタルカメラで神社の写真を撮影した。幻想郷内では写真撮影は禁じられていたのである。
神社の入り口にあるゴミ箱には小さな冊子がいくつも捨てられていた。『テーマパーク 我らの幻想郷』のパンフレットであった。
了